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前橋家庭裁判所高崎支部 昭和54年(少)1421号 決定

少年 M・Z子(昭三九・三・一二生)

主文

少年を中等少年院へ送致する。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五四年一一月一六日午後七時ころ、安中市○○××番地の×所在のモーテル「○○○」客室内において、暴力団員Aをして、覚せい剤様の水溶液を自己の左腕に注射せしめる等したうえ、同人と不純な性的交渉を持つ等して、犯罪性のある者と交際していたばかりでなくいかがわしい場所に出入し、また自己の徳性を害する行為をしていたもので、このまま放置しておくときにはその性格環境に照らして、将来罪を犯す虞れのあるものである。

(適用した法令)

少年法三条一項三号ハ・ニ

(事実認定について)

本件は、「少年は、前記日時場所において、覚せい剤を使用したものである。」という覚せい剤取締法一九条違反の非行事実として送致されたものであるが、少年が自己に施用した覚せい剤水溶液様のものが、覚せい剤取締法二条所定の物質を含有するか否かについての点につき、これを証するに足る証拠が本件記録上存しないため、右送致された非行事実中に含まれており右覚せい剤取締法違反保護事件とは一般、特別の関係にある虞犯保護事件として認定したものである。

(処遇の事情)

少年は、中学二年生ころから怠学、不純異性交遊が目立つようになり、そのころ既に数人の不良青年と性的体験を持つに至つた。そして中学校卒業後は、全くの徒遊状態で、男友達の処を泊り歩きながら、これまでに数十人の男性と無定見に性交渉を持ち、昭和五四年一一月には妊娠中絶の経験を持つもので、特に同年九月ころからは、暴力団員の前記Aと付き合い始め、同人とモーテル等で性的関係を持つ時等に同人から覚せい剤の注射を受けるようになり、これまでにその回数も六〇回以上に亘つていたものである。

以上のとおり少年の非行性は現在最早看過しえない程度に高まつている。これに加え少年の生活環境は、両親は健在なものの、実父が少年の幼少時に水商売の女性を家に連れ込む等したことから両親が別居、離婚、再同居を繰り返す等したため、少年は前後七回に亘り転校を余儀なくされたり、保護者も実父、継父、継母、実母等と転々とする有様で、これまでに基本的倫理感が醸成されるものでなかつた。以上のとおり少年の両親の放縦な生活態度からして、同人らに現在の少年の保護育成をゆだねることは論外な状況にある。

よつて、少年に対し基本的な躾を施し、その保護を図るためには、中等少年院送致の処遇が相当であるので、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条一項三号により、主文のとおり決定する。

しかし、なお少年は、これまでに道路交通法違反の係属歴が一回あるだけで保護処分歴がないこと、本件非行もどちらかと言えば受働的被害者的態様のものであること、若年であつてしかも潜在的能力はかなり高い面もあると推察されることから比較的短期間で矯正教育の効果も見込まれること等を総合勘案するときには、今回の処遇は、中等少年院における一般短期課程を以つて遇するのが相当であると思料される。よつて少年審判規則三八条二項により、同課程における処遇を勧告するものである。

(審判官 廣田民生)

〔参考〕 抗告審決定(東京高 昭五五(く)三号 昭五五・一・二三第一一刑事部決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人○○○○作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。論旨は、事実誤認及び処分の著しい不当を主張するものである。

記録を調査して検討すると、少年は、中学二年生のころから怠学、不純異性交遊が目立ち、そのころから数人の不良青少年と性的体験を持つようになつたこと、中学校卒業後も就職せずに徒遊し、男友達の処を泊り歩きながら、これらの男性と無定見に性交渉を持ち、この間、妊娠中絶の経験をもつていること、昭和五四年九月ころから、暴力団○○一家組員のAと付き合い、同人としばしばモーテル等で性関係を持ち、その際、同人から薬物の注射を受けるようになつたこと、同年一一月一六日午後七時ころ、安中市○○××番地の×所在のモーテル「○○○」客室において、Aから薬物の水溶液を自己の左腕に注射してもらつたうえ、同人と不純な性的交渉を持つたこと、以上の事実を認めることができる。なお、少年が自己に施用した薬物について、少年は覚せい剤を注射したと供述しているが、記録上右薬物が覚せい剤取締法二条所定の物質を含むものであることの補強証拠がなく、原決定も覚せい剤取締法違反の事実は認定していない。

前記認定事実によれば、少年は、犯罪性のある者と交際し、いかがわしい場所に出入し、かつ、自己の徳性を害する行為をする性癖のあるもので、少年の性格環境に照らして、少年をこのまま放置しておくならば、将来罪を犯す虞れのあることは明白である。(なお、送致事実と原決定の認定事実との間には事実の同一性があると認められる。)したがつて、少年に対し虞犯事実を認定した原決定に事実誤認はない。

次に、記録によると、原決定が「処遇の事情」の項において認定説示するところは、当裁判所もすべてこれを肯認することができ、これらの諸事情を勘案し、かつ、少年の非行性の程度、性格、生育歴、現在の生活環境、両親の保護能力等に照らせば、少年がこれまでに道路交通法違反で不処分となつた他は保護処分歴がないこと、本件非行が受動的被害者的態様であること、資質面ではさして劣つているものではないことなどを考慮しても、少年を在宅のまま保護育成することは適切でない。

したがつて、少年を一般短期課程による処遇を相当として中等少年院に送致した原決定の処置が、著しく不当であるとは認められない。

以上のとおりであつて、論旨はいずれも理由がない。(なお原決定の末尾に「審判官」とあるのは「裁判官」の誤記と認める。)。

よつて、本件抗告は理由がないので、少年法三三条少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡村治信 裁判官 林修 新矢悦二)

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